SIerからITコンサルへ転職する前、私は正直なところ「華やかな上流工程の仕事」というイメージを強く抱いていました。新卒でSIerに入社し、SEとして7年ほど開発・保守の現場を経験したのち、PMとしてプロジェクト全体を見る立場も数年経験しました。要件定義から本番稼働まで、決められた枠組みの中で品質とスケジュールを守り抜く仕事には手応えがありましたが、心のどこかで「もっと上流の、経営に近い議論に関わってみたい」という思いを抱えていたのを覚えています。
いざITコンサルとして働き始めてみると、想像とは違う場面に何度も遭遇しました。この記事では、その中でも特に「エージェントの転職情報だけでは分からなかった」と感じたギャップを、できるだけ具体的にお伝えします。
「地道な作業が多い」というギャップは、実は序の口だった
転職活動をしていた頃、いろいろな媒体で「ITコンサルは資料作成や市場調査などの地道な作業が多い」という話を目にしていました。ある程度覚悟していたつもりでしたし、実際その通りではあります。ただ、入社して数ヶ月経った頃に痛感したのは、作業量そのものよりも「答えが用意されていない論点」に向き合う頻度の多さでした。
SIer時代は、システムの仕様やアーキテクチャという「ある程度の正解に近いもの」が存在する課題を扱うことがほとんどでした。過去の類似案件や標準的な設計パターンを参照すれば、進むべき方向はおのずと見えてきます。ところがコンサルの現場では、「この事業はこの先どう変わっていくべきか」「複数の選択肢のうちどれを推奨すべきか」といった、正解が存在しない論点に日常的に向き合うことになります。誰も答えを持っていない問いに対して、自分なりの仮説を作り、根拠を積み上げて提示するという営みそのものに、最初は頭を抱えることが多くありました。会議で「どう思う?」と聞かれても、自分の意見がまとまらず言葉に詰まった経験は一度や二度ではありません。
特に記憶に残っているのは、あるクライアントへの提案の方向性を検討する打ち合わせで、複数の案を並べて「あなたはどれを推すか」と問われた場面です。SIer時代であれば、自社の製品・技術との相性や実現可能性から自然と絞り込めていたはずの比較検討が、コンサルでは前提となる拠り所がないまま、フラットな視点で優劣を判断しなければなりません。頭では分かっていても、いざその場に立つと、判断の軸をどこに置けばいいのか分からず立ち尽くしてしまう感覚を、何度も味わいました。
「やっていれば見てもらえる」が通じない、アピール文化への戸惑い
もうひとつ、事前情報ではあまり触れられていなかったのが評価のされ方の違いです。SIer時代は、与えられたタスクを着実にこなしていれば、年次が上がるにつれて自然と役割も評価も上がっていく感覚がありました。良くも悪くも年功序列的な文化があり、「真面目にやっていればいつか見てもらえる」という前提が根底にあったように思います。
コンサルに移ってからは、その前提が通用しないことに戸惑いました。成果を出すこと自体は当然の前提として、その成果を自分から言語化し、周囲やクライアントに向けて能動的に見えるようにしていく姿勢が強く求められます。黙々と質の高いアウトプットを積み上げているだけでは、周囲からは「何をしているのか分からない人」として映ってしまうことすらあります。受け身の姿勢が抜けきらなかった入社当初は、成果を出しているつもりでも評価面談で厳しい指摘を受けることがあり、ここでも「聞いていた話と違う」と感じました。
こうした視座の違いについては、以前の記事でも詳しく触れています。詳細を詰める仕事から方向性そのものを決める仕事への転換については、「詳細を詰める仕事」から「方向性を決める仕事」へ|SIerとコンサルの本質的な視座の違いで、私が最初に痛感した本質的なギャップとして整理していますので、あわせて読んでいただけると理解が深まると思います。
それでも「思っていたより良かった」ことも確かにある
ここまでギャップの話ばかりしてきましたが、悪いことばかりだったわけではありません。むしろ想定していなかった良い驚きも多くありました。
たとえば、特定の製品や技術に縛られず、純粋に顧客本位で提案を考えられる自由度は、SIer時代には得られなかった感覚でした(この自由度が「拠り所のなさ」という戸惑いと表裏一体であることは、前述の視座の違いの記事でも触れた通りです)。また、多様なバックグラウンドを持つ同僚と働けること、タスクが立て込んだときにお互いカバーし合う助け合いの文化があったこと、上長との距離が近く相談しやすかったことなど、想像していたよりずっと「人」に恵まれた環境だったと感じています。裁量権の大きさや意思決定のスピード感も、良い意味で予想を裏切られた部分でした。
ギャップを感じたときにやったこと
答えのない論点に戸惑い、評価のされ方に戸惑いながらも、少しずつ状況が変わっていったのは、特別な才能に目覚めたからではありません。先輩や上司からのフィードバックを素直に受け止め、他のコンサルタントの資料や発言の「型」を観察して真似ることを続けた結果です。この点は、資料作成や議論についていけなかった時期に実際に取り組んだことを整理した記事、コンサル転職後、資料作成・議論についていけなかった私が克服のためにやったこと4つでも詳しく書いていますので、同じようなギャップに直面している方はあわせて参考にしてみてください。
まとめ:事前情報だけでは埋まらないギャップがある
「地道な作業が多い」「期待値を上げすぎない」といった一般的な注意点は、転職エージェントの記事でも数多く語られています。それはそれで事実ですし、参考にする価値はあります。ただ実際に転職して痛感したのは、業務量そのものよりも、答えのない論点への向き合い方や、評価されるための立ち回り方といった「仕事の作法そのものの違い」でした。こうした部分は、外から見えづらく、当事者として体験してみないと実感しにくい領域だと思います。
もしこれからITコンサルへの転職を考えているのであれば、業務内容の表面的な情報だけでなく、こうした「仕事の進め方・評価のされ方」というレベルのギャップまで踏み込んで情報収集しておくことをおすすめします。転職エージェントとの面談では、業務内容だけでなく、評価制度や意思決定の進め方について具体的に質問してみると、入社後のギャップを事前にある程度減らせるはずです。


