独立系SIerに新卒で入社し、SEとして基幹システムの開発・保守を数年経験したのち、PMとして中規模プロジェクトのマネジメントを数年任されるようになりました。そこから30代でITコンサルタントへ転職するまでの間、実は「情報収集を始めてから、実際に転職を決断するまで」の期間がかなり長くありました。この記事では、その決断直前に襲われた迷いと、どう向き合ったかをできるだけ正直に書いておこうと思います。
転職サイトやエージェントの記事を読むと、「後悔しない決断をするための3ステップ」「転職の迷いを解消する方法」といった、論理立てて迷いを解消する内容が中心です。もちろんそれらは有益なのですが、実際に自分が決断の淵に立ったときに感じた迷いは、そうした整理されたステップだけでは説明しきれないものでした。今回はエージェント記事があまり踏み込まない、決断直前の生々しい心境の部分を中心にお伝えします。
「情報収集のつもり」が、いつの間にか本気に変わっていた
最初から強い決意があったわけではありません。むしろ最初の数ヶ月は、転職サイトを眺めたり、コンサル出身者の発信を読んだりする、半分趣味のような情報収集でした。当時の自分にとってそれは、今の仕事に不満があるからというより、「世の中にはどんな選択肢があるのだろう」という軽い好奇心に近いものだったと思います。
ところが情報を集めるうちに、少しずつ気持ちが変わっていきました。周囲の同僚や知人の中で転職する人がぽつぽつと増え始め、「自分も今動かないと、このタイミングを逃してしまうのではないか」という焦りに似た感情が芽生えてきたのです。明確な単一のきっかけがあったわけではなく、情報収集レベルの興味が、気づけば本気の検討に変わっていたというのが正直なところです。この段階的な変化は、いざ振り返って言語化しようとすると、意外と説明しづらいものだと感じました。
「本当にこの選択でいいのか」自問した夜のこと
いよいよ選考が進み、内定という具体的な形が見えてきた頃になって、それまでとは質の違う迷いに直面しました。頭の中では「挑戦したい」という気持ちが固まっているはずなのに、いざ最終的な返事を出す段階になると、夜になって「本当にこの選択で後悔しないだろうか」と何度も自分に問いかける時間が増えていったのです。
転職サイトの記事にある「決断のための3ステップ」のような整理された手順は、頭を整理するには役立ちます。ただ、それらの記事はあくまで一般論としての判断軸を示すもので、実際に内定を前にして感じる「今の環境を手放すことへの不安」や「新しい世界でやっていけるかという根拠のない自信のなさ」といった、感情のレベルの揺れそのものにはほとんど触れていません。決断の最後の一押しの手前で立ち止まってしまう感覚こそが、実際に経験してみて一番手強かった部分でした。
同業種で年収を上げる道も、本気で天秤にかけた
この時期、実はコンサルへの転職だけを一本道で考えていたわけではありませんでした。今のSIer業界に残ったまま、条件のよい別の会社に移って年収アップを狙うという選択肢も、かなり本気で検討していました。業界を大きく変えずに済むぶん、環境変化のリスクは小さく見えましたし、これまで積み上げてきた経験をそのまま活かせるという安心感もあったからです。
転職エージェントとの面談でも、このあたりの本音を率直に相談しました。ただ、多くのエージェントは自社が扱う求人の紹介が前提になるため、「同業種内にとどまる」という選択肢そのものを一緒にフラットに比較検討してくれる場は、思っていたよりも少なかったというのが実感です。コンサルへの越境が唯一の正解だったわけではなく、業界内での転職という道も十分にあり得たという逡巡は、今振り返っても意味のある葛藤だったと思っています。
周囲の焦りが、最後の一押しになった
最終的に決断を後押ししたのは、劇的な出来事というよりも、じわじわとした焦りの積み重ねでした。同僚や知人の転職が続く中で、「今のタイミングを逃したら、次はいつ動けるか分からない」という年齢的な感覚が強くなっていったことが大きかったです。
加えて、選考の逆質問の時間に、面接官から自分自身のキャリアの迷いについて率直な意見をもらえたことも、心境が固まっていく一因になりました。選考は一方的に評価される場だと思い込んでいましたが、実際には自分の迷いを言語化し、相手からのフィードバックを受け取る相互理解の場としても機能していたのです。
振り返ってみると、あの焦りは決してポジティブな感情ではありませんでしたが、堂々巡りの検討をどこかで打ち切り、実際に一歩を踏み出すための現実的なきっかけにはなったと思います。焦りだけで決めたわけではなく、あくまでそれまで積み重ねてきた比較検討の最後の後押しとして機能した、という順番が自分にとっては大事なポイントでした。
迷いは弱さではなく、判断材料を集めるプロセスだった
今振り返ると、決断直前のあの迷いは、優柔不断だったからではなく、必要な判断材料をぎりぎりまで集め続けていたプロセスだったのだと思います。実際に転職してから痛感した本質的なギャップについては、以前の記事「詳細を詰める仕事」から「方向性を決める仕事」へ|SIerとコンサルの本質的な視座の違いで詳しく整理しています。決断直前に感じていた「拠り所のなさへの不安」は、まさにこの視座の違いを無意識に予感していたからこそのものだったのかもしれません。
また、入社後に実際に感じた「思っていたのと違った」ギャップについては、ITコンサルに転職して「思っていたのと違った」と感じたことで書いた通りです。決断前に感じていた迷いのいくつかは、実際に的中していた部分もありますが、それでも今この選択を後悔していないのは、迷いながらも自分なりに材料を集めて決めた過程があったからだと思っています。
もし今、決断直前の同じような迷いの中にいるなら、その迷いを「決めきれない自分の弱さ」だと責める必要はありません。同業種にとどまる選択肢も含めてフラットに比較し、自分の言葉で納得できる理由を持てるまで悩み抜くこと自体が、後悔の少ない決断につながるはずです。


