SIerで8年ほどSE・PMとして経験を積み、業務系のコンサルティングファームへ転職してから1〜2年目の頃、私は毎週のように資料の作り直しを命じられていました。夜遅くまで手を入れたスライドを持って行っても、「で、結局何が言いたいの?」の一言で突き返される。議論の場では「どう思う?」と聞かれて言葉が出てこない。正直なところ、「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と本気で悩んだ時期があります。この記事では、その苦しかった時期を実際にどう乗り越えていったのか、具体的にやったことを4つに整理してお伝えします。
最初にぶつかった「資料のダメ出し」の中身
まず、当時受けていた指摘を振り返ってみます。抽象的な「もっと頑張れ」ではなく、いつも具体的でした。
- スライドごとのメッセージが不明確で、主張が弱いと言われた
- 情報量が多すぎて、結局何が言いたいのか伝わらないと言われた
- 主張と根拠のつながり(ロジック)が弱いと言われた
- 見た目・構成のレベルが低いと言われた
SIer時代の私は、資料を作るときに「漏れなく詳細に書く」ことを美徳としていました。要件を1つも取りこぼさないように、背景も経緯も全部盛り込む。ところがコンサルの現場では、それが完全に裏目に出ました。情報を足すほど評価される世界から、情報を削れるかどうかで評価される世界への転換が、想像以上にきつかったのです。
議論のスピード感についていけなかった瞬間
資料以上にこたえたのが、ディスカッションの場でした。上位者やクライアントを交えた会議で、「これについてどう思う?」と急に振られることが何度もありました。SIer時代は「決まった方向性に沿って詳細を詰める」議論が中心だったので、そもそも自分なりの仮説を持たずに会議に臨む癖がついていたのだと思います。何も言えずに黙り込んでしまった数秒間の気まずさは、今でもはっきり覚えています。この経験について、SIerとコンサルの本質的な違いという観点からもう少し掘り下げた話は、別記事の「詳細を詰める仕事」から「方向性を決める仕事」へでも触れていますので、あわせて読んでいただけると背景がつながると思います。
「才能」の問題ではなく「型」の問題だと気づけた理由
転職体験を調べていると、「まずは冷静に状況を分析しましょう」「先輩に相談しましょう」といった一般論のアドバイスをよく見かけます。もちろん間違ってはいないのですが、当時の自分が本当に知りたかったのは、もっと手を動かせるレベルの具体策でした。幸い、私の場合は周囲の先輩・上司が地道にフィードバックを返してくれる環境だったこともあり、半年ほど試行錯誤するうちに、これは地頭やセンスの問題ではなく、身につけていなかった「型」の問題なのだと気づけました。ここからは、実際に効果があったと感じている4つの行動を紹介します。
行動1:フィードバックを素直に取り入れて改善を繰り返す
当たり前のようですが、最初はこれすらできていませんでした。指摘されると「でも自分なりに考えて作ったのに」という抵抗感が先に立ってしまうのです。ある時期から、指摘は一旦すべて飲み込んで、まず言われた通りに直してみる、というスタンスに切り替えました。「なぜその指摘が来たのか」を後から自分の頭で考え直す順番にしたことで、素直に改善サイクルを回せるようになりました。
行動2:優秀な人の資料・発言を観察して型を盗む
周囲の先輩コンサルタントの資料を見比べてみると、共通点がありました。1枚のスライドに主張が1つしかない。見出し(キーメッセージ)だけを読めば話の筋が追える。発言も「結論→理由→補足」の順番で、聞き手が迷わない。こうした型を、意識的に真似るところから始めました。ゼロから独自のスタイルを編み出そうとせず、まず「型」をコピーすることに割り切ったのが、遠回りに見えて一番の近道でした。
行動3:「結論から話す」フレームワークを練習する
ロジックのつながりが弱いという指摘に対しては、「なぜ?」を何度も自分に問いかけて、主張と根拠の間にある飛躍を洗い出す練習を繰り返しました。会議で急に意見を求められたときも、まず「結論はこうです」と一言で言い切ってから理由を続ける、という順番だけを徹底するようにしました。中身が多少粗くても、話す順番を変えるだけで「考えていないわけではない」と伝わるようになった実感があります。
行動4:完璧に仕上げる前にドラフト段階で相談する
SIer時代の私は、資料は「完成させてから見せる」ものだと思い込んでいました。ところがコンサルの現場では、8割どころか3割程度の叩き台の段階で方向性を確認してもらう進め方が主流でした。最初は「こんな粗い状態を見せるのは恥ずかしい」という抵抗がありましたが、思い切って早めに見せるようにしてから、手戻りが目に見えて減りました。完璧を目指してから相談するのではなく、早く相談してから完璧に近づける、という順番の逆転が、一番効いた工夫だったと思います。
それでも残る「拠り所のなさ」との付き合い方
型を身につけてある程度形になってきても、SIer時代のように「自社製品・技術に沿っていれば間違いない」という拠り所がないことへの戸惑いは、正直まだ完全には消えていません。ただ、これは克服すべき欠陥というより、コンサルという仕事の構造そのものなのだと今は捉えています。むしろ、この「拠り所のなさ」こそが、特定の製品や技術に縛られず顧客本位で考えられる自由度の裏返しでもあります。このあたりの感覚は、入社直後の総論的なギャップについてまとめた入社後ギャップ(カルチャー・スキル)を乗り越える方法でも書いていますので、あわせて読んでいただくと状況が伝わりやすいと思います。
向いていないと思ったときこそ試してほしいこと
今振り返ると、当時の私に必要だったのは特別な才能ではなく、地道な型の習得と、相談するタイミングの工夫でした。「向いていないかもしれない」と感じている時期の自分に伝えられるなら、まずは目の前の指摘を素直に飲み込んで、身近な優秀な人の型を1つずつ真似てみてほしいと伝えたいです。焦って全部を一人で完璧にしようとするほど、かえって遠回りになります。
もし今、資料作成や議論のスピード感についていけず苦しんでいるなら、一人で抱え込まず、同じような壁を越えてきた人の話や、キャリア相談ができる場を頼ってみるのも一つの手だと思います。転職・キャリア形成の参考になる情報はこちらでも紹介しています。


