SIer(システムエンジニア)からITコンサルへ転職して、クライアントとの向き合い方そのものが根本から変わったと感じています。結論から先に言うと、信頼というものが「気づけば自然に積み上がっているもの」から「その都度、価値を証明し続けて初めて得られるもの」に変わりました。
コンサルとクライアントの信頼構築について調べると、「おもてなしの精神を持つ」「複数の選択肢を提示する」といった一般論はたくさん出てきます。ただ、SIerから転職してきた立場で、具体的に何を変えたことで信頼を得られるようになったのか、行動レベルまで踏み込んで書かれたものはあまり見かけませんでした。今回は、自分がつまずきながら見つけた「先回りの提言力」の身につけ方を書いてみます。
この記事でわかることは、次の4点です。
- SIer時代とコンサルで、クライアントとの信頼の「作られ方」がどう違うか
- コンサルになって最初に痛感した、期待値を超える提言を求められる厳しさ
- 「先回りの提言力」を身につけるために、入社後に実際にやったこと
- 転職前の今の仕事からでも始められる準備
発注元・受注元だった頃、信頼は「自然と」積み上がっていた
SIer時代は、発注元と受注元という立場が明確でした。長期にわたって同じクライアントを担当することが多く、要望に丁寧に応え続けていれば、時間の経過とともに信頼関係が自然と積み上がっていく感覚がありました。
もちろん楽だったわけではなく、納期や品質へのプレッシャーは常にありました。それでも、関係性の土台そのものは「発注元と受注元」という構造が支えてくれている部分が大きく、こちらから能動的に関係を勝ち取りにいく、という発想はあまり持たずに済んでいたように思います。
コンサルになって痛感した、「フィーに見合う価値」を証明し続ける必要性
コンサルに転職して最初に痛感したのは、コンサルフィーに見合う価値を、案件のたびに証明し続けなければ関係が続かないという厳しさでした。クライアントからの要求事項に応えるだけでは足りず、クライアント自身もまだ気づいていない一歩先の課題を、こちらから提言することが当たり前に求められます。
転職した当初は、この「先回り」という感覚がまったく掴めませんでした。振られたテーマに対して、聞かれたことに正確に答えることはできても、「言われる前に、一歩先まで考えて持っていく」という動き方に、体がついていかなかったというのが正直なところです。
印象に残っているのは、あるミーティングで「他にどんな論点がありそうか」と聞かれた場面です。求められている以上のことを考えていなかった自分は、その場で目立った意見を出せず、周囲のコンサルタントが次々と切り口を挙げていくのを、ただ聞いているしかありませんでした。答えを持っていないこと自体より、「そもそも一歩先を考える習慣がなかったこと」に気づかされた瞬間でした。
SIer時代は、受発注という構造そのものが信頼の土台を用意してくれていましたが、コンサルではその土台がありません。自ら能動的に信頼を勝ち取り続ける必要がある、という構造の違いこそが、最も本質的なギャップだったと今振り返って感じています。
「先回りの提言力」を身につけるためにやったこと3つ
特別な才能があったわけではなく、地道に続けた工夫は次の3つに集約されます。
- 上司・先輩コンサルタントの実際の動きを間近で見て、真似たこと。優秀な人が会議の中でどのタイミングで、どんな角度の提言を持ち出しているかを観察し、型として吸収するようにしました
- クライアントの現場に頻繁に足を運び、会議資料には出てこない現場の空気感から、本当の課題を拾うようにしたこと。資料上の論点だけを追っていても、先回りの発想は生まれにくいと感じました
- クライアントの本質的な課題を深掘りし、「何をすれば本当に喜んでもらえるか」を常に考える習慣を持ったこと。目の前のタスクをこなすことだけに意識が向かないよう、意識的に問い直すようにしました
これらはどれも即効性のあるテクニックではなく、地道な積み重ねでした。それでも続けるうちに、少しずつクライアントから「そこまで見てくれているのか」という反応をもらえる場面が増えていったのを覚えています。
周囲のSIer出身の同僚に聞いても、似たような壁にぶつかった経験を持つ人は少なくありませんでした。受託開発というビジネスモデルの中で長く働いてきた人ほど、「頼まれたことに正確に応える」ことへの意識は高い一方で、「頼まれていないことまで先回りして提言する」動き方には、最初はとまどいやすい傾向があるように感じています。
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SIerとコンサルの本質的な違いについては「詳細を詰める仕事」から「方向性を決める仕事」へ|SIerとコンサルの本質的な視座の違いでも書いています。今回の「先回りの提言力」も、根っこにあるのはこの視座の転換の難しさです。
資料作成やディスカッションでつまずいた経験とその克服についてはコンサル転職後、資料作成・議論についていけなかった私が克服のためにやったこと5つにまとめました。受け身から能動的な姿勢への転換という意味で、今回の内容ともつながっています。
入社後ギャップ全般についてはSIerからITコンサルへ転職して味わった入社後ギャップ、感じたことを全部書くで総括していますので、あわせてご覧ください。
終わりに
SIer時代に築いていた信頼と、コンサルで求められる信頼は、同じ「信頼」という言葉でも中身がまったく違うものでした。受け身のままでは信頼は積み上がらず、能動的に価値を証明し続ける姿勢そのものを身につける必要があるというのが、この数年で一番痛感したことです。
これからコンサルを目指している方は、入社後にこうした「先回りの提言」を求められて戸惑う場面があることを、あらかじめ知っておいてください。特別な才能の話ではなく、地道な観察と行動の積み重ねで身につけられるものだと、自分の経験からは感じています。
転職前の今の仕事からでも始められること
- 依頼された内容に加えて、「この後どんな論点が出てきそうか」を一つ添えて返してみる
- 会議やレビューの場で、周囲の優秀な人がどんな角度の提言を出しているかを観察する
- 「頼まれたことに正確に応える」ことを、仕事の評価軸にしすぎていないか振り返る
もう一つ付け加えるなら、この「先回りの提言力」は、身につけたら終わりというものでもありません。案件が変わればクライアントも業界も変わり、その都度また一から現場観察をやり直すことになります。この「毎回ゼロから信頼を勝ち取りにいく」感覚は、コンサルという仕事の前提です。転職を考える段階でこの前提を知っておくだけでも、入社後の戸惑いは小さくなるはずです。
コンサルに求められる提案力や思考の型は、入社後に身につく部分も多いですが、転職前から少しずつ触れておくと初速が変わります。気になるテーマがあれば、まずは自分のペースでオンライン講座で学んでみるのもおすすめです。


