SIerを退職するとき、次のキャリアの準備以上に、実は一番気をつけたことがあります。それは、とにかく円満退社にこだわることでした。円満に辞めることは当たり前のマナーのように語られがちですが、振り返ってみると、その辞め方そのものが、転職後の仕事に地味に、しかし確実に効いてきたと感じています。
SIerから他業種への転職理由やキャリアパスを解説する記事は数多くありますが、辞めたあとにIT業界の中でまた前職と顔を合わせることになる、という具体的な構造にまで踏み込んで書かれたものはあまり見かけません。今回は、コンサルへ転職してから実際に感じた「業界の狭さ」と、それが円満退社の大切さとどうつながっているかを、自分の体験から書いてみます。
この記事でわかることは、次の3点です。
- IT業界が「思っていたより狭い」と実感した、転職後の具体的な場面
- 退職時の円満退社が、転職後の仕事にどう影響してくるか
- 円満退社のために、自分が実際に意識して行動したこと
退職を切り出すとき、円満に終えることだけは譲れなかった
SIer(システムエンジニア)としてのキャリアに一区切りをつけると決めたとき、引き継ぎのスケジュールや退職の伝え方について、自分なりにかなり気を配りました。次の職場での評価や成果と同じくらい、前職をどう終えるかが後々の自分に返ってくるはずだ、という感覚が当時からありました。
当時は正直、そこまで理屈立てて説明できていたわけではなく、「立つ鳥跡を濁さず」という程度の感覚だったと思います。上司への伝え方一つ取っても、不満をぶつける形にはせず、あくまで次にやりたいことがあるからという前向きな理由で話すことを意識していました。
ただ、実際にコンサルへ転職してからその感覚が正しかったと、何度も実感することになりました。
転職してから分かった、IT業界の「狭さ」のリアル
コンサルに転職してしばらく経ってから気づいたのは、IT業界は想像していたよりずっと狭く、前職のSIerと仕事上で再び関わる場面が普通にあるという事実でした。抽象的な「人脈が大事」という話ではなく、案件を通じて具体的に接点が生まれる構造があります。
たとえば、開発を伴うコンサル案件で、前職のSIerに開発パートナーとして入ってもらうケースがあります。逆に、前職のSIer側が受けている案件で、要件定義や企画といった上流工程を、コンサルとして支援する立場で関わることもあります。
どちらのケースでも、以前どういう辞め方をしたかが、その後のやり取りのしやすさに直結します。気まずい辞め方をしていれば、案件の窓口で顔を合わせるたびに気を遣うことになりますし、逆に円満に終えていれば、業務上の相談も素直に持ちかけやすくなります。
業界そのものの母数が大きいように見えても、実際に案件で行き来する範囲(得意領域や地域、扱う技術)で見ると、関係者が重なり合う場面は思っている以上に多いというのが、転職して数年経った今の実感です。
この実感を持ってからは、目の前の案件で関わる会社に対しても、どこかで将来また一緒に仕事をする可能性がある相手として接するようになりました。短期的な損得だけで関係を割り切らない方が、長い目で見て結局は自分にとってもやりやすい、という考え方に変わったのは、転職して得た副産物の一つです。
円満退社のために、実際に意識してやったこと
円満退社と言っても、特別なことをしたわけではありません。意識して続けたのは、次の3つです。
- 引き継ぎ資料を、通常想定される分量より一段階厚めに作成すること(自分がいなくなった後、資料だけで判断に迷わないレベルを目指しました)
- 後任が独り立ちできるまでの期間を、自分から申し出て確保すること(引き継ぎ期間を短く切り上げず、質問しやすい期間を意図的に長めに取りました)
- 退職理由を感情的な不満としてではなく、次に何をしたいかという前向きな言葉で伝えること(会社や上司への批判に聞こえる言い方は避けました)
特に1つ目と2つ目は、退職までのスケジュールを詰めていると後回しにされがちな部分です。自分が辞めたあとに現場が混乱しないようにしておくことが、結果的に自分自身の評判を守ることにもつながると考えていました。
前職のアルムナイイベントも、人脈という意味で侮れない
もう一つ、退職後に意外と役立っているのが、前職のアルムナイ(退職者向け)イベントです。業界の狭さを踏まえると、こうした場で無理のない範囲で人脈を保っておくことも、地味に有効な選択肢だと感じています。
転職してすぐの頃は、前職とのつながりをあえて薄くしたい気持ちも正直ありました。ただ、実際に業務上の接点が生まれる経験を重ねるうちに、良好な関係を保っておくこと自体が、巡り巡って自分の仕事のやりやすさに返ってくるのだと考えるようになりました。
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退職のタイミングで、前職の上司から社内のコンサル部門への異動を提案された経験については退職面談で「うちにもコンサル部門があるよ」と言われた話|SIer内コンサルを選ばなかった理由で書きました。同じ「退職」というフェーズで感じたこととして、あわせて読んでいただけると立体的に伝わるかと思います。
SIer時代に感じていたことをより広く振り返った内容はコンサル転職前のSIer時代、感じていたことを全部書くにまとめていますので、こちらもよろしければご覧ください。
終わりに
円満退社は、単なる社会人としてのマナーというだけでなく、狭い業界で長く働き続けるための、実務的な備えでもあると、転職してから実感しています。今まさに退職のタイミングを迎えている方には、目先の引き継ぎの手間を惜しまず、丁寧に終える価値があるとお伝えしたいです。
退職や転職のタイミングを考え始めた段階であれば、まずは在職しながら情報だけ集めてみるのも一つの方法だと思います。円満退社を意識するのと同じように、焦って動くのではなく、無理のないペースで準備を進めていくのがおすすめです。今後のキャリアで学び直したい分野があるなら、転職を決めていない段階でも資料だけ取り寄せて、情報を集めてみるところから始められます。


