SIerからITコンサルタントへ転職して、一番面食らったのは「資料の作り方」でも「残業時間」でもありませんでした。仕事の質そのものが変わった、というのが正直な感覚です。
「詳細を詰める」から「方向性を決める」への転換
SIer時代の私の仕事は、多くの場合「方向性はすでに決まっている」前提で始まりました。要件は固まっている、あるいは固まりつつある。そこから先、どう実装するか、どうスケジュールを引くか、どう品質を担保するかを詰めていくのが仕事でした。
コンサルに転職して最初にぶつかったのは、その前提そのものがない仕事でした。クライアントへの提案内容を、ゼロから考える。上位者やクライアントの前で「あなたはどう思いますか」と意見を求められる。複数の選択肢を並べて、どれを推すか自分で決める。詳細を詰める力ではなく、方向性そのものを決める力が求められる場面が、想像していたより圧倒的に多かったのです。
「ボトムアップ思考」から「トップダウン思考」への転換でもある
この変化は、「ボトムアップ思考からトップダウン思考への転換」と言い換えることもできます。SEやSIerの現場で求められるのは、詳細設計や実装といった積み上げ型のアプローチです。目の前の要件を正確に、漏れなく形にしていく力が評価されます。
一方でコンサルの現場は、上層部やクライアントの経営層と短時間でコミュニケーションを取りながら、全体像から逆算して考えるトップダウン思考が前提になります。目の前の細部よりも先に、「そもそも何が本質的な課題なのか」「どこから手をつけるべきか」を組み立てる必要があります。この思考の順序が根本から逆になる感覚は、資料作成のテクニックを覚えるだけでは埋まりませんでした。
本当に難しかったのは「フラットに評価する」ことでした
ここで一番つまずいたのが、評価軸の切り替えでした。SIer時代は、良くも悪くも「自社が提供できる範囲」の中で最適解を探すことが多かったです。自社の製品、自社の技術、自社のリソース。その枠の中でどう工夫するかが腕の見せ所でした。
コンサルではそうはいきません。特定の製品や技術に縛られず、クライアントにとって本当に良い選択肢は何かをフラットに評価することが求められます。これは自由度が高くて魅力的なことでもあるのですが、同時に「拠り所がなくなる」感覚でもありました。今まで無意識に頼っていた「自社の売りたいものに寄せる」という補助線が使えなくなり、自分の頭だけで白紙から評価軸を組み立てる必要があります。ポジショントークをしない、というのは口で言うほど簡単ではありませんでした。
振り返れば、SIer時代から感じていた違和感の裏返りでした
今になって思うのは、この難しさはSIer時代に漠然と感じていた葛藤と地続きだったということです。受託開発というビジネスモデル上、SIerは自社の利益を無視できません。本当に顧客の悩みに寄り添った提案ができているか、どこかで自問しながら働いていた時期がありました。
コンサルに来て、その制約から解放された代わりに、今度は「自分自身の判断基準」を問われるようになりました。逃げ場がなくなった、とも言えます。この視座の変化は、資格やスキルの勉強だけでは埋まらない部分だと感じています。
転職前に準備しておけばよかったと思うこと
今振り返ると、転職前にもう少し準備できたはずだと感じることが2つあります。1つは、ロジカルシンキングの基礎(MECE、ピラミッドストラクチャーなど)を体系的に学んでおくことです。現場で実践しながら覚えることもできますが、基礎の型を先に知っておくだけで初速はかなり変わります。書籍やオンライン講座で、転職活動と並行して触れておく価値は十分にあります。
もう1つは、提案書・資料の「構成の型」を見て慣れておくことです。コンサル業界の資料は独特の構成ルールがあり、事前に一定量目にしておくだけでも、入社後の吸収スピードが変わってくると感じています。
よくある質問
Q. この視座のギャップに慣れるまで、どのくらいの期間がかかりますか?
個人差はありますが、数ヶ月単位の試行錯誤は前提と考えておいた方がよいと感じています。焦らず、次の記事で書く「克服のプロセス」を参考にしてください。
Q. SIerでの経験は無駄になりますか?
そうは思いません。むしろ「机上の空論で終わらない提案ができる」という強みとして評価される場面も多くあります。ただし、その強みを活かすには視座の転換とセットで語れる必要があります。
まとめ
SIerからコンサルへの転職を考えている方に伝えたいのは、「スキルのギャップ」以上に「視座のギャップ」が大きいということです。詳細を詰める力から、方向性を決める力へ。ボトムアップ思考から、トップダウン思考へ。自社に寄せた評価から、フラットな評価へ。この転換に戸惑うのは、能力が足りないからではなく、求められている仕事の質そのものが変わるからです。次の記事では、このギャップを実際にどう乗り越えていったかを具体的に書いていきます。
SIerからのキャリアに悩んだら
もし今、SIerでのキャリアに漠然とした不安を感じているなら、まずは自分の市場価値や選択肢を知ることから始めてみるのも一つの方法です。コンサル業界に強い転職エージェントに相談してみることで、見えていなかった選択肢が見つかることもあります。

