「一度教えたはずなのに、なぜ同じところで止まってしまうのだろう」。採用面接官として選考に関わり、後輩の育成(OJT)も担当するようになってから、この戸惑いを何度も味わいました。自分では感覚的にできるようになっていたことを、いざ言葉にして教えようとすると、想像していた以上にうまく伝わらなかったのです。
入社数年が経ち、書類選考・一次面接・最終面接まで一通り担当する機会が増えたことで見えてきたのは、「教える」という行為そのものが、思っていたよりずっと難しい仕事だったという事実でした。
この記事でわかること
- 「感覚でできること」を後輩に言語化して伝える難しさの正体
- 後輩指導で実際にぶつかった3つの壁
- 特別なテクニックを使わずに乗り越えた、具体的な教え方
採用面接官・育成担当になって見えてきたこと
入社から数年が経ち、採用面接官として書類選考(職務経歴書のスクリーニング)からケース面接を含む一次面接、最終面接・オファー面談まで、一通りのフェーズを担当するようになりました。あわせて、配属された後輩のOJTも任される機会が増えています。
面接官・育成担当という立場になって最も印象に残っている気づきは、「教える内容」以前に「教え方」そのものに苦労したことでした。自分が実務でつまずかなかった部分ほど、後輩がなぜそこでつまずいているのか、理解に時間がかかりました。
後輩指導でぶつかった3つの壁
- 感覚的にできることを、体系立てて言語化して伝えること自体の難しさ
- 後輩のつまずき方が、自分が新人だった頃とズレていること
- 教えすぎず、本人が試行錯誤する余地をどこまで残すかという加減
「感覚でできること」を言語化する難しさ
一般的な後輩指導のノウハウ記事を見ると、「褒める」「傾聴する」「フィードバックのタイミングを工夫する」といった心構えが並んでいます。もちろんどれも大切ですが、実際に指導する立場になって最初にぶつかった壁は、もっと手前にありました。
自分が感覚的にできるようになっていたことを、体系立てて言語化して伝えること自体が難しかったのです。「この資料は何となくこう直した方がいい」「この場面は経験的にこう動く」という判断を、後輩に再現可能な形で説明しようとすると、途端に言葉に詰まりました。
一般的な指導論の記事の多くは、褒め方や伝え方といったコミュニケーションの工夫を解説するにとどまり、この「言語化の壁」自体を前提にしていない印象があります。実際に指導する側になって初めて、自分の中にある暗黙知の多さそのものに気づかされました。
実際に「後輩指導 コツ」といったキーワードで検索してみると、上位に出てくるのは人材育成会社のコラムがほとんどで、「褒める」「1on1を定期的に行う」「相手のタイプに合わせて伝え方を変える」といった、業種を問わない一般論に終始しているものが目立ちます。コンサルという業界特有の状況(答えのない論点を扱う仕事に、経験の浅い後輩をどう慣らしていくか)に踏み込んだ内容には、なかなか出会えませんでした。
後輩のつまずき方が、自分の頃と違いすぎた
難しさのもう一つの理由は、後輩のつまずきポイントが、自分が新人だった頃のつまずき方とズレていたことです。同じ課題を渡しても、自分が苦労した箇所ではなく、まったく想定していなかった別の箇所で手が止まっていることが少なくありませんでした。
そのため、自分の経験をそのまま話しても、後輩の実感とかみ合わないと感じる場面が何度もありました。共感しようとしても、まず「なぜそこでつまずくのか」を理解するところから始めなければならず、指導の前提づくりに想像以上の時間がかかりました。
SIer実務を経ていない後輩には「現場感覚」が抜けている
育成を担当する中で特に感じたのは、新卒でコンサルに入った若手は、SIer(システムエンジニア)実務の経験がないままITコンサルタントになっているという点です。同僚には自分と同じSIer出身者だけでなく、様々な業界・職種からの転職者や、コンサルが一社目という若手も多く在籍しています。
受託開発特有の構造(自社の利益と顧客の利益が必ずしも一致しない葛藤)や、技術キャッチアップの大変さといった「現場感覚」を持たないまま、方向性そのものを議論する上位レイヤーの仕事に放り込まれる後輩を見ていると、自分がSIer出身の実体験者として、その感覚差分を補足する役割を意識的に担う必要があると感じるようになりました。
面接官として選考に関わる中でも、似たようなズレを感じることがあります。候補者側が想定している「難しさ」と、実際に入社後つまずきやすいポイントが一致しないケースは珍しくありません。選考と育成の両方に関わるようになったことで、入り口(選考)と出口(定着・育成)を一貫して見る視点が持てるようになったのは、副次的な収穫でした。
教えすぎない、待つことの難しさ
もう一つ悩んだのは、どこまで手を出すかという加減の判断です。教えすぎたり、答えを先回りして与えすぎたりすると、本人が試行錯誤する機会そのものを奪ってしまいます。
一方で、コンサルの現場は日々のスピード感が速く、悠長に待っている余裕がない場面も少なくありません。「育てる」という時間軸と「案件を前に進める」という時間軸のバランスを取ることには、今も試行錯誤を続けています。
自分がつまずいた順番をなぞる、という乗り越え方
最終的に効果を感じたのは、特別なテクニックではありませんでした。自分自身がSIerからコンサルへ転職した際につまずいた経験を思い出し、その順番をなぞる形で一つずつ教えるという方法です。いきなり抽象的な型やフレームワークを教えるのではなく、まず自分がどこでつまずき、何に気づいて乗り越えたかを、段階を追って追体験してもらうイメージです。
この進め方に変えてから、後輩から「何を分かっていないのかが自分でも分からなかったが、順番に説明してもらって整理できた」という声をもらえる場面が増えました。教える側の失敗経験そのものが、実は一番使える教材だったのだと、指導する立場になって初めて気づきました。
自分自身が新人時代に技術キャッチアップで苦しんだ経験については新卒SIer1〜3年目が辛いと感じる理由と乗り越え方で書きましたが、当時何につまずき、どう乗り越えたかを思い出す作業そのものが、今の後輩指導にそのまま活きていると感じています。
資料作成や議論のスピード感についていけず苦労した時期に実践した克服法はコンサル転職後、資料作成・議論についていけなかった私が克服のためにやったこと5つにまとめていますが、特別な才能ではなく地道な型の習得で乗り越えられる、というメッセージは、後輩指導の場面でも変わらないと思っています。
ITコンサルで求められるスキル・資格全般についてはITコンサルで求められるスキル・資格、実際に感じたことを全部書くで総括していますので、あわせて読んでみてください。
終わりに
後輩を指導する立場になって初めて、自分自身のスキルや経験を改めて言語化する必要に迫られました。感覚でできることを言葉にする作業は、教える相手のためだけでなく、自分自身のキャリアを客観視するためにも役立つと感じています。
もし今、自分の経験や強みをうまく言葉にできず、次のキャリアの一歩に迷っているなら、転職エージェントに相談しながら自分の経験を整理してみるのも一つの方法だと思います。


